寿円佳宏 wonderland

スポーツ業界紙「スポーツフロンティア」に掲載しているコラムをブログで紹介。

黒か白でなく、黒も白も

   有名大学を卒業しても、官僚や大企業の道を歩まない人が増えている。昔ながらのエリート道を選ぶ人も、起業するための経験を磨くためと割り切り、期間限定で働く人が多い。大学時代から起業する人も増えている。共通するのは、自分の力で、社会の何かを変えたい。という気持ちだ。大企業に入れば、企業の力を背景に、自分だけでは出来ない事に挑戦できる。ただそのチャンスに恵まれるまでの時間や、配属は保証されない。というわけで、まずは即戦力として多くの経験が積める企業を選ぶ傾向にある。仕事の選び方も、高い報酬は望みの一つだが、裁量権の大きさや、社会に軌跡を残したいなどが主な理由で、私達の時代とは違っている。

  同じ年代でも、また違った方向を目指す人達もいる。こちらは身の丈に合った規模で、自分の好きなやり方で何かの役に立ちたい。そうした同じ価値観を持つ人達が補完し合いながら、小さなコミュニティーを形づくっている。発酵食品の研究家、出前の料理人、陶芸家、家具職人、パティシエ、農園家、地ビール職人など。ソーシャルメディアがそんな繋がりを可能にしている。彼ら彼女らを見ていると、裕福ではないが、それぞれ好きなことを仕事にして楽しそうである。また共通して時間やお金の使い方が上手なのだ。

  こんな事を思い浮かべたのは、セブンイレブンの沖縄進出のニュースであった。沖縄にはコンビニという業態ができる前から、「共同売店」という似た店舗があった。地域や集落の住民が出資して運営する店で100年以上の歴史がある。食料品や日用雑貨を扱い、利益が上がると出資者への配当や、地域行事の寄付になったりする。互助の上に成り立ち、医療費や奨学金の貸与なども行う。住民は、時には店のオーナーであり、時にはお客になる。この関係が面白く、次の社会を暗示している様に感じる。

  データによる徹底した効率化で利便性を提供するコンビニ、顔の見える関係で価値を共有する共同売店。この二つの共存は、先述した若い人達の仕事の考え方とも相似している。これからは黒か白でなく、黒も白も。複数が共存する時代になる。過去や常識に決別すれば、誰にもふさわしいポジションがあるはずである。