寿円佳宏 wonderland

スポーツ業界紙「スポーツフロンティア」に掲載しているコラムをブログで紹介。

ウイズ・コロナの覚悟

 アウディがブランドの象徴である4つの輪の重なりをなくし、フォルクスワーゲンVWを離し、マクドナルドも”m”の山を横にずらすなど、3社は人と人との距離を保つソーシャル・ディスタンスを、誰の目にも見える形で訴えた。製品やサービスの紹介でなく、最も大切なメッセージをロゴに乗せて伝えるやり方は見事。それを見て「IOCも五輪のマークを離さないとね」なんて軽口を叩いていたのが、恥ずかしい限り。まったく能天気であった。「ピンチをチャンスに」なんて言葉も薄っぺらに感じるほど事は重大で、異次元の変革を迫られている。

 ワクチンや治療薬がない中でやれるのは、密閉、密集、密接の「3密」を避ける。先の3社をはじめ世界のメッセージである。だが、人類が地球で生存競争に勝ち残り、繁栄してきたのは、3密のお陰とも言える。極端に言えば、密は人類の発明である。一人では外敵に立ち向かえないのを、集団で密な関係を築く事でここまで来た。人は集団の生き物なのだ、それが分断されている。専門家はコロナとの戦いは長くなるという。ある人は「アフター・コロナ」でなく「ウイズ・コロナ」、共に生きていく事を考えるべきとも。人は都市に集中して住み、効率を追求する事で発展してきた。今、超高層マンションやリニアなど、人類の幸せと信じてきた先端技術が、最もリスクという矛盾に直面している。人は動かないがモノは動く、人と人は接触しないが、触れ合いを無くさない。難問中の難問だが、この二律背反を解く事を求められている。

 私たちが携わるスポーツの魅力は、デジタル化が進む中で人と人がリアルに触れ合う身体体験。「今だけ、ここだけ」コピーできない希少価値を体験できる所にある。この価値を残しながら、接触を避けるには何ができるか。私の頭では、eスポーツが大きな流れになるくらいしか思いつかないが、自然や綺麗な空気(分散)、身体を動かす喜び、誰かと共にする時間、自由の尊さ、この辺りに糸口がありそうである。距離を保ちながら密な関係を築くヒントをスポーツで見せる事ができれば、それが雛形になり社会全体に広がる。この難問に取り組む事が、さらなるスポーツの価値向上につながると信じたい