寿円佳宏 wonderland

スポーツ業界紙「スポーツフロンティア」に掲載しているコラムをブログで紹介。

人と技術の新しい関係(2016年4月)

 先日、米グーグルが開発した囲碁人工知能AI)「アルファ碁」と、韓国のプロ囲碁棋士イ・セドル氏が対戦した。結果は皆さんもご存知の通り5戦を戦い、人口知能が4勝。プロ棋士が1勝し面目を保ったものの、人と機械が逆転する時代がついに来たと感じた人は多いだろう。いずれはそういう時が来ると覚悟していたが、こんなに早いのかというのが印象であった。IoTビッグデータAI、それにVRを加えた4つの言葉を見聞きしない日はないくらいで、こうした先進技術は専門家だけのものではなく、すでに私たちの足元まで来ている。今回の囲碁対決は、それをわかりやすく見せられただけかもしれない。身近になった3DCGGPSなど数々の技術も、元は軍やハリウッドなどで開発された超高価で超特別なものであった。今はそれがあっという間に低コスト化され、私たちの生活に溶け込んでいる。AIや他の新技術も同様、信じられないスピードで低コスト化されるだろう。私たちは開発するプロになれないかもしれないが、技術を理解しそれを事業や生活に活用することはできる。

 大手生命保険会社がITやバイオ技術を生かした商品やサービスの研究を始めたという。先天的な対応としては、遺伝子情報で病気の発症リスクの高さを推定し保険料を個別に決める。後天的な対応としては、利用者の運動や生活習慣から保険料の割引きを考えているようである。遺伝子情報は究極の個人情報で、倫理的なものをどう考えるかなど難しい課題は残っている。またスポーツでも選手のパフォーマンスをリアルタイムで測定し選手交代に使ったり、観客を楽しませるエンターテイメントへの利用が始まっている。さらに遺伝子によってその人の能力や、競技の向き不向きを推測する動きもある。メダルを効率良く獲得することを目指すと、倫理のきわに手を延ばしたくなるのもわかる。スポーツも例外なく新技術を取り入れ、イノベーションの道を進むであろう。その一方で世の中がそうなればなるほど、リアル体験が貴重になるはずである。幸いにスポーツはリアルそのもの。肉体と精神を使った努力や苦労が、最も価値あるものになるかもしれない。また、そうあって欲しいものである。