寿円佳宏 wonderland

スポーツ業界紙「スポーツフロンティア」に掲載しているコラムをブログで紹介。

トヨタ86とスバルBRZ(2012年5月)

 健康志向でカロリーを気にする人が増える一方で、ボリュームたっぷりのバーガーやコンビニ弁当、激辛食品がヒットする逆転現象が起きている。車も環境やファミリーが開発の中心課題であったが、トヨタ86とスバルBRZのような新しい挑戦も始まっている。この兄弟車は、スバルがもつ低重心の水平対向エンジンの開発力と、トヨタのエンジン直噴化技術が結集し、両社の提携を象徴する車として開発された。走り屋のイメージが濃く、熱いファンをもつスバル。トヨタは、一時はGMを抜いて世界一の規模や、プリウスで環境車のトップランナーになった。しかしリコール問題や天災が重なり、世界一から脱落。環境車でも、低燃費エンジンやディーゼル等に、その地位を脅かされている。そこで、”もう一度車本来の楽しさ、走る喜びを取り戻そう”と企画されたのが今回の車だ。発売後は若い層を中心に人気を集め、年内の納車は無理という程だ。スバルは、CM黒木メイサさんを起用。スバリストと呼ばれる熱烈なファンは見込めることから、スポーツカーに縁のなかった人の開拓に挑戦している。

 今回の開発の主導はもともとスバルであった。しかし、スバルのお家芸とも言える4WDとターボは搭載されていない。スポーツカーの走りは大切にするが、燃費の良さや購入後の維持のしやすさも実現するというトヨタの思想が色濃く反映された。スバルの開発陣は修正を余儀なくされ、トヨタは実現するために開発中だった直噴技術を、技術漏洩覚悟で導入を決めた。今でこそ両社の技術の結集と言っているが、ここに至るまでには諦めそうになる苦難があったと推察する。

 もうひとつトヨタは今回の車で新しいことに取り組んでいる。発売前に、アフターパーツメーカーに試作車や図面を提供したことだ。車両の情報が事前に漏れてしまうが、発売と同時に各社がアフターパーツを販売するので注目度を高められる。また、多様なアフターパーツの展開で「脱・売り切り」をめざす。販売台数至上主義から顧客との関係重視に切り替え、カスタマイズや修理、点検、保険などアフターサービスで稼ぐ狙いがある。BRZ86には、私達にも参考になる様々なヒントが込められいる。