寿円佳宏 wonderland

スポーツ業界紙「スポーツフロンティア」に掲載しているコラムをブログで紹介。

アウト・オブ・ボックス(2012年4月)

 カーサブルータスの別冊「日本の美術館ベスト100」に刺激され、巡ってみたいと考えてたら、運良くテレビで十和田市現代美術館に出会った。青森には十和田市現代美術館と青森現代美術館、最も行ってみたい美術館が二つある。番組では、館の様子や作品が紹介されたが、その中に興味引かれる作品があった。栗林隆さんの「ザンプランド」。説明するのは難しいが、みなさんの想像力に期待しよう。小さな白い部屋の中央にイスとテーブル、テーブルの上にもイスがあり、そこに上れば、天井に開いた小さな丸穴から顔を出せる。その横には、天井上に顔を出し浮かぶアザラシ、天井から胴体がぶらさがっていると言ったほうがいいかもしれない。こうした仕掛けに気づかず、通り過ぎる人も多いだろう。天井の穴に気づき、興味を持った人はそこから頭を出すことで、その上にある別世界に出会う。顔を出すと、本当の水と植物でできた池の水面に顔を出す自分に出会うのだ。作家がテーマにしているのは「境界線」。この作品では小さな天井の穴。その下と上では、まったく違った世界がある。しかし、そこを超えないと見ることがない、超えたものだけが目にできるという意味らしい。

 強く印象に残ったのは作品の面白さもそうだが、今世の中で受け入れられているのは、これまでの枠組みから外れたもの。枠と枠の間にあるものでは、と考えていたからだ。私たちの扱う商品はスポーツで、種目やカテゴリーに分け管理してきた。これまで、こうした区分は管理上都合が良かった。しかし、消費者から見ればどうなのだろう。我々に都合のいい区分では、消費者のニーズはくくりきれなくなっている。スポーツと健康の違いは何か。人気のランニングやアウトドアは、既存の陸上マラソンや、キャンプ&トレッキングでは、はみ出してしまう。良い例はiPad、パソコンでもなくスマートフォンでもない、消費者が求める新しいカテゴリーを発見した。こうしたものがスポーツの世界にもあるはずである。業界に関係なく、時代を変えるのは、既存の枠組みの外にしかない。とすれば、商品も、販路も、組織も人も、考え方も、一度ご破算にする時が来ている。チャンスは箱の外にある、作品はそう教えてくれる。