寿円佳宏 wonderland

スポーツ業界紙「スポーツフロンティア」に掲載しているコラムをブログで紹介。

勝つために倍の準備をする(2016年5月)

 リオ五輪が迫り、各競技の選手選考が進んでいる。四年に一度の大会の代表権を獲得し、その上で世界に挑む。すべての選手はこれに合わせ体調やメンタルを整えてきたはずだ。その中で出場権を獲得し、メダルを目指すというのは想像を絶することだと思う。我々で言えば、携わるビジネスを日本で一番にし、世界で三番以内に入るということだ。ビジネスは日々の蓄積で途中の失敗は許容されるが、スポーツの大会はそれが許されない。前回のロンドン五輪で金メダルを獲得した内村航平選手のコーチが語ったコメントが印象深く残っている。本来の力の半分しか出せなかったがいい結果に終わったといった内容だった。言い換えれば、半分の力でもメダルを狙える準備をしてきたということだ。メダルを狙う人のレベルはこういうことかと、感じ入った次第である。

 先日、ヤマハが開催するライブに行く機会があった。ジャズを習う生徒の発表と講師陣のセッションであった。娘の友人がプロのシンガーで、ヤマハの講師もやっていることで足を運んだ。1部はピアノやサックスなど楽器グループ、2部はヴォーカルグループ。バックを先生方がサポートする形。いずれの先生もプロで活動している人ばかり。未熟で緊張する生徒を、最も演奏しやすいようにサポートする姿はすごかった。常に演奏者に目を向けながら、生徒のミスやテンポの狂いを何もなかったようにサポートする。生徒さんが演奏後に緊張しました。でもバックに助けられ気持ちよく演奏できました。またやりたいですとのコメント。それを実現しているのは、それぞれの人に対応する引き出しの多さと懐の深さによるものだろう。音楽は、勝ち負けより自らの達成感と聞いてくれている人の感動が良し悪しになる。生徒の演奏後、先生方がもう一つの顔、プロとしてセッションを披露してくれた。ピアノ、ベース、ドラムにアルトサックス、娘の友人はヴォーカルで加わった。普段は別行動のメンバーによる一期一会のパフォーマンスである。まさにクリエイティブの衝突、アドリブとその受け方がすごかった。相手を信頼し、また相手を思んばかる気遣いが伝わってくる。これも、演奏の倍以上の力があるからこそ可能なのだろう。