寿円佳宏 wonderland

スポーツ業界紙「スポーツフロンティア」に掲載しているコラムをブログで紹介。

科学の進歩とその忘れ物(2014年1月)

 毎年新年の朝刊を楽しみにしている。少し早めに起き、未来を予測する特集をゆっくり読むのが恒例になっている。昨年は位置情報とITが社会を変えるという話。一昨年は新世代の若者が柔らか頭とITで、世界の問題を解決するという話が印象に残っていた。今年もITやロボット、再生医療など科学の進歩にまつわる話が多いことに変わりはなかったが、何かこれまでと違う感じがあった。その一つは人や文化だ。これまで人がやってきたことを科学が人以上にこなし、神の領域と言われる所まで手を伸ばしつつある。科学の進歩の先に人に残されたものは何なのか。本当に大切なことは何か。こうした疑問が、文脈や行間に強くなっている気がした。科学が進歩すればする程、逆張りとして人や文化についてもより以上に考える必要があるということだろう。もう一つ感じたのは、これまでは始まったばかりの最先端な話が多く取り上げられていたが、今年は国や大企業を含めた保守本流の動きやその可能性にも注目が集まっていた。いつの時代も常に今が変革の時と言われるが、今年は人への回帰や本流の変化など、良くも悪くもこれまでとは違う何か大きな切り替わりを迎えているように感じた。

 スポーツは自らの肉体と精神がよりどころという点で、こうした時代の不足を補う役割を担えるのではと期待する。2020年の東京五輪決定に国中が歓喜し、楽天優勝のドラマやサッカー日本代表の活躍に一喜一憂するのは偶然ではない。大切と感じるものがそこにあるからだ。さらに今年はソチ五輪、ブラジルWカップのビッグイベントも控える。メディアがこれだけのイベントを取り上げ、企業がマーケティングに利用する恵まれた業界は他にない。この環境に甘える事なく、科学の忘れ物をスポーツがカバーできればいいと思う。科学がいくら進歩しても、健康や元気、汗を流す爽快感、自然に触れる開放感はかけがえのないものである。また、できなかった事ができる喜び、チームワーク、誰かのサポートなど、子供時代スポーツを楽しむ中で知らず知らず身に付き、大人になった毎日の生活で役立つ能力も多い。広義で考えるとスポーツは私達が思う以上に大きな基幹産業なのかもしれない。