寿円佳宏 wonderland

スポーツ業界紙「スポーツフロンティア」に掲載しているコラムをブログで紹介。

規模や効率の裏にチャンス(2017年11月)

 リニア中央新幹線で品川と大阪間が結ばれると、JR山手線を一周するのと同じ時間で移動できるらしい。これまでも東京と地方を結ぶ交通路が生まれ、その度に東京との行き来が便利になり、地方が活性化すると言われてきた。結果はいつも同じ。期待とは逆に東京への集中が進み、地方は疲弊が進んだ。人・物・金が求心力のある方へ吸い取られる現象で、ストロー効果と呼ばれる。「流入しやすい」は「流出しやすい」と同義語なのだ。2020年東京オリパラに向け、スポーツを成長産業にすべく国が先頭になり取り組んでいる。スポーツ業界にとって一大チャンスであることに違いはないが、それ以上に他業界や予想もしなかった所が果実を狙っている。チャンスをものにするには、真の強みを再確認し、高い視点から事業を再定義すると共に、業界を超えて広くコラボすることが求められている。

 一極集中はネットやデジタルでも起きている。ネット社会は、誰もが情報の発信者になれ、多様性に富んだ世界、個性化が進むと言われてきた。こうした側面が進んだことは確かだ。しかしそれ以上に様々な所で情報の寡占化が進んでいる。人間の本質は、これまでと大きく変わっていないのかもしれない。が、デジタル化により見えなかったものが見えるようになったことで、自らの考えよりみんながどう考えるか、冒険するのではなく保守本流に乗る意識が強くなっている。残念ながらそれが今の潮流だ。さらに既存勢力やメディアも、顧客の志向に合わせ安易に動く循環になっている。情報の受け手も発信者も、嘘ではないが全体をカバーしていない目の前のデータを信じ、小さな肯定を続けている内に、いつの間にか逆らえない流れを作ってしまっている。大変危うい気がする。

一方で、「規模の不経済」や「心の会計」など、これまでにないやり方や、新しい価値観が生まれているのも事実だ。「スポーツはなくても生きていけるが、あると人を幸せにする」。繰り返しになるが、これからはスポーツが持つ“ヒューマンな価値”が大切になるはずだ。規模や効率だけでは解決できない時代、スポーツはそんな時代の先頭ランナーになれると思うのは楽観的すぎるだろうか。