寿円佳宏 wonderland

スポーツ業界紙「スポーツフロンティア」に掲載しているコラムをブログで紹介。

リスクとチャンスは裏表(2015年6月)

 スターバックスがよく例に出されるが、顧客はコーヒーを飲みたいからでなく、スターバックスが提供する空間、ソファー、音楽などを気に入って訪れる。総じてスターバックスは顧客に体験を提供していると言われる。これは新しいことでなく、意識せずに私たち日本人が普通にやってきたことだ。いい事でも意識しないと、繰り返したり拡大することはできない。私たちにとってはあまりに普通で、気づかず続けてきたことが、海外では新鮮でロジカルに整理し直すことでビッグビジネスを作り上げたように思う。

 もう一つ事例としてビデオカメラのGoProを紹介したい。カメラやビデオは日本のお家芸で未だに世界で高いシェアを握る。GoProは探検やエクストリームスポーツなどの撮影向けウェアラブルカメラである。創業者が趣味のサーフィンの動画を人に頼んだが、十分に近づくことができなかった。それならということで開発された。2013年には出荷台数384万台で世界1位となった。GoProのカメラにはズームも手ぶれ防止機能も、映像を確認する液晶モニターもないのが通常だ。超小型で、超広角、身につけるためのアタッチメントは逆に豊富。常識的な機能では日本メーカーの方が勝っていることが多い。

 それがなぜ世界1位なのか。ここでもカメラという商品でなく、それを使うことで得られる体験を価値にしたことにある。GoProは機能を利用者視点に絞るのと同時に、サーフィン、スキー、モータースポーツなど様々なスポーツで、アスリート本人の目線の迫力満点の動画を、YouTubeSNSに投稿されるよう仕掛けた。見たことのない世界に誰もが興奮し、自分も同じようにと広がった。

 二つの事例を挙げたが、スターバックスの居心地の良さは、日本のおもてなしに代表される伝統的な飲食やサービスに元があると思う。なのに日本からスターバックスは生まれなかった。GoProは価値の見直しで、圧倒的シェアを持つ日本メーカーを軽く抜き去った。まだまだ気付いていない強さが我々にあると思うし、現状にひるむ必要もない。スポーツではナイキ、アディダス等を軸に収斂が進んでいるように見えるが、GoProは日本から世界シェアをひっくり返す可能性もある事を示している。