寿円佳宏 wonderland

スポーツ業界紙「スポーツフロンティア」に掲載しているコラムをブログで紹介。

無理しても一流に触れよう(2015年5月)

 運良くチケットを入手し、ポール・マッカートニーのジャパン・ツアーに行ってきた。昨年は来日しながら体調不良で公演中止に。1年ぶりの来日で今回は大阪発となった。6時半の開演予定が、なかなか始まらず心配をしたが45分程遅れで開幕。せっかちな関西人には珍しく、会場は遅れる不満より期待が勝っていた。オープニングは「マジカル・ミステリー・ツアー」。始まった安堵感もあり、いきなりアリーナーは総立ち、巨大な会場が一瞬にしてポール・マッカートニーワールドになった。後で聞くと聴衆は約4万人、全37曲、2時間35分の公演。ビートルズ世代と言われる私や私より少し上の元気な老人が多いのは予想どうりだが、さすがに世界最高のメロディーメーカーと言われるように、世代的にはその子供と孫、若い人たちまで、オール世代のファンが詰めかけていた。私自身、彼らが活躍した60年代の後半が中学時代で、半分はライブで同時期を過ごしている。72歳のポールはどんな姿でどんなパフォーマンスを見せてくれるのか、正直期待半分であった。ところがびっくり、とても72歳とは信じられないステージであった。印象は育ちのいい不良少年が、歴史を刻みいい年をとりましたって感じ。パワフルで、それでいて紳士で、おちゃめ。ジャケットを脱ぐと白シャツ。何もデザインのない白いシャツ姿なのに本当にカッコいい。立ち居振る舞いや言葉、行動がデザインになっているということだろう。これからシャツは白にしようかと思わせる。

 また、信頼するバックバンド、進行、演出、モニターのビデオ、何もかもが超一流でかっこいい。わずか2時間半であったが、そのクリエイティビティに何年分もの刺激を受けた気がする。私は天邪鬼なところがあり、みんなに人気のビートルズよりアウトロー的なストーンズに傾倒し、ミック・ジャガーキース・リチャーズのファンを自称していた。もちろんビートルズのレコードは買っていたし好きな曲もたくさんある。年齢から考えて、ひょっとすると今回が最後になるかもという気持ちに押され行った部分もあったが、本当に行ってよかった。世界で評価されていることには理由がある。これはポップスだけでなく、他の音楽、アート、芝居、芸術、ビジネス、すべてに共通して言えることだろう。好き嫌いなんか関係ない。超一流と言われるものは無理しても接した方がいい。わざわざ世界のどこかに観に行く人がいるくらい価値があるのだから。自分の住む所に一流がやって来たなら無視する理由はない。