寿円佳宏 wonderland

スポーツ業界紙「スポーツフロンティア」に掲載しているコラムをブログで紹介。

つないで伝えるアイデア(2013年1月)

 今年は、20年に一度の伊勢神宮式年遷宮の年に当たる。内宮・外宮の二つの正殿、14の別宮すべての社殿をはじめ、装束や宝物をそっくり作り直して、御神体を新宮へ移すという。途中、中断や延期はあったものの、1300年もの長きにわたり脈々と受け継がれてきた世界でも例のない大イベントだ。次の機会となると怪しいので、今回はぜひ訪れてみたいと考えている。それにしても、わざわざ20年に一度遷宮する意義は何なのか。一般的には、真新しく生まれ変わることで、溜まったけがれを浄化する。これは、日本人がお正月を単なる年の変わりでなく、生活や身の回りを新しくリセットしようとする気持ちに通じる。日本人の精神のルーツがこうした所にあるのかもしれない。また、建築技術や職人の技を絶やさないため、世代交代に合わせて伝承の機会にしているとも言われる。モノは永遠ではない。より長く残すために、技術を次々とバトンタッチする方法は画期的なアイデアだと思う。これは、私たち一般の家にも受け継がれている。欧米は石づくりの建物で永遠を求める。一方日本は、地震など天災が多いこともあるが、伊勢神宮にならい、木造の建て替えで永遠を求める。国の意思や政策が、知らず知らず一般社会に相似形として現れるのもうなづける。アベノミクスがかけ声でなく、津々浦々まで同様に広がると期待したい。

 さらに、このアイデアはもっと根本的な所、私たち自身にも生きている。人や生物のDNAだ。永遠の生存欲のために生物が選んだ方法。身体は朽ちるが、DNAという形で身体を乗り換えることで、永遠性を手に入れた。乗り換えて永遠を手に入れるアイデアは、生物の発明といえる。最近は企業やブランドにおいても、同様のことが起きているように感じる。大切なことは、また受け継がれるのは、人や社会の問題を解決するアイデアや人で、器である企業やブランドは、これまでのような大きな役割を持たなくなってきた。誰もが必要なものに手軽につながるネット世界は、想像を超えたスピードで、こうしたことを後押ししている。まだはっきりした形は見えないが、企業はこれまでと違った価値観で、新しい役割を果たす時期を迎えているように感じる。