寿円佳宏 wonderland

スポーツ業界紙「スポーツフロンティア」に掲載しているコラムをブログで紹介。

大切なのは、便利より自由である事(2018年6月)

 音楽の再生、天気やニュースの読み上げ、家電や照明のセットを簡単にリモート操作できる、アマゾンの音声アシスタント「エコー」で、夫婦の会話が友人に送られるという事故があった。エコーは、「アレクサ」と呼びかけてアシスタントが始まるのだが、何かの言葉を聞き違えスタート。さらに会話に登場した友人の名前を聞いて、会話を友人に送るよう命令されたと勘違いした。盗聴されたのではなく、アレクサの勘違いが重なって今回の信じられない事故が起きたというのだ。昔、島に住む一人の男の行動がすべてビデオに収められ、彼がどんな人生を送るのかを世界中の人たちが、TVドラマとして楽しむという映画があった。それが架空の話でなく、私生活の全てが誰かに見られている、監視の目は我が家までやって来ているということだ。中国では街中に監視カメラが設置され、顔認証技術を合わせると「寿円さん、赤信号で渡るのは法律違反ですよ」と注意できる所まで来ているとも言われる。欧州委員会20185月に「一般データ保護規則(GDPR)」を施工、EU内のすべての個人データの保護を強化している。IT企業の「データ錬金術」に対する欧州委員会強い懸念が背景にある。

 一度使うと手放せなくなる様々なサービスを、私達は進んで享受している。しかもその多くは無償。冷静に考えれば成り立たない話である。それが続けられるのは何故か。無償で多くの利用者を集め、広告で成り立たせる。データの集合知を使い商品開発やサービス向上に使う。ここまでは理解できる。しかし、サービス利用のための同意書の中に不利な用件が盛り込まれていたり、消されているはずの個人情報が、他のデータと組み合わせることで特定されたり。さらにフェイクニュースや気づかない形で世論が誘導されるのも心配だ。便利さと引き換えに提供する私達の行動情報。うまく使えば予防医療や交通渋滞の解消など、社会資本になる。しかし使い方に寄れば後戻りできないリスクにもなる。メリットとリスクを理解した上で利用するしかなく、是非は一律に決められない。絶妙のバランスやセンスが問われる。束縛されず自由でいるには、「無知」や「思考停止」が最も怖い。