寿円佳宏 wonderland

スポーツ業界紙「スポーツフロンティア」に掲載しているコラムをブログで紹介。

絞ることが結果的に広がる(2014年4月)

 商品企画や販売を考える際、少しでも広く、あれもこれも外せないと欲張ることが多い。得るよりも失う方がショックが大きいからだ。理屈でわかっていても、失う被害を最小限にしたいという意識が働いてしまう。また打合わせや稟議を重ねる中で、参加者の意見が少しづつ平等に入り、いかにも安全そうに思える(最も危険な選択である事が多い)、みなさんよろしく的商品やサービスへと変貌してしまう。これまでと違う何かを求めて始めたのだから、これまでと違うプロセスで判断しなければならないはずである。前回と同じ人たちが、前回と同じ考え方で、時間だけが新しくなっている。これではダメなのは誰の目にも明らかかである。一度、他人事というくらい遠くから客観視する必要があるのかもしれない。自分の利益や過去の経験が前にあると判断が狂いやすい。言葉は悪いが他人事だと思えば、誰もいい判断をするものである。

 勇気がいることであるが、思いきってターゲットや焦点を絞ってみる。みなさ〜んから、そこのあなた、あなたのために考えましたくらいに。これは海外ブランドと日本ブランドの広告の作り方に顕著に現れていると思う。海外は、商品の位置づけ、特徴、得られる利益などを一つに絞り、繰り返し表現を変えて伝える。考えがシンプルで表現が複雑。日本ブランドは、あれもこれも言いたいと欲張る。軽くて、強くて、安全で、色もきれい。表現は全部を言えないので平坦になることが多い。真逆のアプローチである。予備知識が蓄積された国内市場が対象なら、日本ブランドのやり方も通用したが、グローバル市場での打出しとなると、残念ながら海外ブランドに軍配があがる。アップル、ダイソン、ティファール、ルンバなどは商品開発から、しっかり絞られている。位置づけでいえばフリスクやコーラなどが代表的である。どちらも気分を変えるきっかけを作る、これを手を変え品を変え様々な形で伝える。私たちは次はどんなアイデアで脅かせてくれるのか、それを楽しみ、いつしかファンになっていく。さらには、あれ見た、面白いよねと、拡げる役割まで担っている。絞ることが結果的には広がると信じる。その勇気とアイデアを顧客は見ている。