寿円佳宏 wonderland

スポーツ業界紙「スポーツフロンティア」に掲載しているコラムをブログで紹介。

覆水盆に返らずと言うけれど

  展示会が続き、お店やメーカーの方と話す機会が多くあった。元気な企業は共通して新しい事に挑戦する気風が強い。突然の環境変化や不透明さはあっても「条件はみんな同じ」と受け止め、次の事、自分たちができる事を着々と進めている。そんな話は聞いていて楽しいし、とても刺激になる。

  ちょうど参院選の告知があり、年金問題が争点になっている(原稿が出る頃には過去形になっているかも)。他にも米中の関税問題、身近な所ではグローバルブランドの政策変更などもある。これまでの蓄積や努力と関係ない所で起きる変化だ。年金問題では前後の脈絡が端折られ、老後2000万円が必要という試算がクローズアップされた。冷静に考えれば試算は、おかしいものではない。気付いていながら直視するのが怖く、先送りしていただけだ。今の年金だと毎月5万円が不足、長寿化した余命を掛けると2000万の蓄えが必要と具体的に示され、さあ大変という事になった。人が一生に必要な額の試算もある。様々な人がおり一律にはいかないが、一人暮らしで1.9億円、妻と子供の3人家族で3.6億円、同じように収入を試算すると2.1億円。共働きでやっと計算が合うという感じである。対象になる時間が長いこと、金額が大きいことから縁遠く感じるが、こちらの方が多くの人にとって切実かもしれない。長い人生何があるかわからないし、考えれば考えるほど気が遠くなる。

  横道にそれたが、私が言いたいのは次の事。問題に直面した時、人は大きく二つに分かれる。現実や起きる未来を受け入れ、今の自分は何をできるか考える人。ムードに乗って誰かの解決策を待つ人。資産形成に目覚めNISAに取り組む。工場の一部を中国から他国に移す。輸出先を変える。自社サイトを強化する。商材を切り替える等。一つ一つは小さな策で、元の姿に戻す力はないが、やれる事をやる。半年1年が経つと、その積み重ねが大きな差になるはずである。覆水は盆に返らないが、できる事は必ずある。非常におぞましいがこんな比喩がある。森で移動中のグループが虎と遭遇した。その時、虎から逃げるために必要なのは、虎より速く走ることではない。周りより速く走ること。意味深である。