寿円佳宏 wonderland

スポーツ業界紙「スポーツフロンティア」に掲載しているコラムをブログで紹介。

水は低きに、情報は興味に流れる

  休日の、いつもより遅めの時間帯に、新幹線に乗る機会があった。いつもと同じ新幹線なのに、車内の空気がまったく違っている。平日は、キーボードを叩く音や、資料をめくる紙音くらいしかないのだが、あちこちから会話する声が聞こえてくる。子どもの声も交じり、どことなく楽しそうである。そんなゆるい気配に感化され、手許にあったスマホをしまって、ぼんやり車窓を眺めていた。そこには、水をはり、田植えの準備をするのどかな光景があった。水をはった水田が鏡面のように光る風景は、私の車窓の楽しみの一つで、今年もそういう季節になったんだと感じていた。

  近江の田園風景を楽しんでいたのだが、野洲川を超えたあたりから、水面に混じって茶色の面が目立ってきた。はじめは休耕地の草が枯れているのかと思ったが、今は新緑の季節。そんなはずはない。何だろう、思い当たったのが麦畑。麦は輸入が大半で、日本での生産はほとんどなくなったと思っていたので、身近な所でこれだけの麦畑を見るのは新鮮であった。もっとびっくりなのは、これだけ新幹線に乗りながら、私が気づいていなかったことである。桜や新雪の季節は、車窓に目が行く事もあるが、大抵はスマホや資料に目を向けている。見えていても見ていない。興味あることだけを見ている。

  同じ目標を持つ会社でさえ、話したことが伝わるのはひいき目に見て2-3割。しかも聞いている人も、都合よく自分の聴きたいように解釈していることが多い。文脈を端折り、刺激的な言葉をニュースにされるのは政治家だけではない。改めて情報は、見聞きする人の期待と度量に左右されることを感じると共に、自分は本当に時間を有効に使っているのか疑わしくなった。

  ちなみに滋賀の麦を調べてみると、「麦秋」という言葉に出会った。字面から秋を連想するが、麦秋は初夏の季語。米にならい、刈取り時期を示す言葉として秋が使われている。また麦の生産量を調べると、北海道が圧倒的一位で、佐賀、福岡に続いて滋賀県は全国4位。近くにはキリンのビール工場があり、地元の麦を使った「滋賀づくり」が発売されている。興味があることに情報が向かうのは、ここでも証明されることになった。