寿円佳宏 wonderland

スポーツ業界紙「スポーツフロンティア」に掲載しているコラムをブログで紹介。

最少が美しい(2016年2月)

 唐突ですが、地球の生き物で最も進化しているのは何だと思いますか。普通に考えれば人という事になるのだろうが、私はイルカやクジラが一番のような気がする。人は道具や火を使う事で、他の生き物と全く違う進化を遂げた。コミュニティを築き集団で生きるという知恵も大きかったと思う。イルカやクジラはどうだろう。人が火や道具を使って実現している多くの事を、身一つでかなえている。水の抵抗を最小にする省エネでスピードも併せ持つボディー。衣服や冷暖房機器なしで体温調整ができる皮膚と脂肪。GPSなしで大海原を自由に巡行する能力。さらに通信機能なしに仲間とコミュニケーションする能力など。それらをシンプルに自らの身体だけで実現していることには、敬意を払うしかない。しかも地球に対する環境負荷も最小限で持続可能なサイクルになっている。

 他の生き物においても、体の形や機能は長い年月の中で生き抜くために美しく最適化されている。ただほとんどは種の保存のための進化で、遊びは感じられない。イルカがボートについて泳ぎまわったり、クジラが悠々とホエールウオッチングの人たちを受け入れているのを見ると、食べるためだけにエネルギーを使っていない余裕を感じる。こんな所も一番に選びたくなる理由である。

 こうした生き物や自然の摂理を見ていると、過剰を捨てシンプルに生きることの大切さに気づかせてくれる。私たちは普段たくさんのものに囲まれ生活をしているが、本当に必要なものだけを選ぶとすれば何が残るだろう。ほとんどのものは、いつか必要な時が来ると後生大事に残しているがまず使われることはない。スーツケースひとつで家を出る事になったとしても、大丈夫な準備をしていたいものである。持ち物を整理するという事は、考え方や生き方を整理するという事でもある。遊牧民を語源にする現代のノマドは街を仕事場兼遊び場にしたり、シェアハウスに住むことが普通になったりと、生活スタイルが大きく変わってきている。またお金の使い方も、車や服など持ち物ではなく、その人の内に蓄積される趣味や能力開発に向かっている。全てはストックからフローに、所有からシェアに、持たざる時代に転換している様に思う。