寿円佳宏 wonderland

スポーツ業界紙「スポーツフロンティア」に掲載しているコラムをブログで紹介。

大切なものは枠の外にある(2015年11月)

 通勤で歩くよう心がけている。同じ道ではあるが、年に二度歩く側が変わる。日陰側から日向側に、日向側から日陰側にである(南北の道を歩いてます)。今年も肌寒くなり先日、日向側へ切り替わった。毎年、無意識に行っていることであるが、こうして振り返ると私の小さな季節の行事になっている。余談になるが、歩いているといろいろな発見や感動がある。明らかに前日とは違う強い日差しから梅雨開けを知ったり。攻撃的な刺すような日差しが突然穏やかになり、夏の終わりを感じたり。リゾートのような抜けた空気に会社へ行くのがもったいないと思ったりと、一人小さな発見を楽しんでいる。毎日通る同じ道であっても通る側が変わるだけで、いつもと違う風景が見える。私たちは見ているつもりでいても、ほとんど頭に入っていないのだ。新しい建物でもそうだ。ほんの少し前のことなのに建て替え前の姿を思い出せない。恐ろしいほど残っていない。逆に言えば毎日の生活の中でも、乗る電車の車両を変えたり、通る道を変えたり、ほんの少しいつもと違うことを意識すれば、新しい事に出会う機会が増えるはずである。

 駅で見かけた人のファッションが気になった。その人は上から下までカモ柄に包まれていた。誰にも好きな色や柄はある。シャツやパンツ、バッグ、帽子など、組み合わせを考えずに選ぶと、ついつい同じ嗜好になりがちである。結果同じ柄がそろったコントのようなコーディネートに。他人事のようだが誰にも同じ様な資質はある。人は自分の知っている世界が全てで、それ以外は世の中にない事になっている。またPOSデータや、社内データでも同じ事が言える。データは、ダメな事はしっかりあぶり出してくれる。自社内に限ればいいことも見つけられる。が、他社や世の中で支持されているものは見えない。仕事でも個人でも、枠の外にこそ様々な可能性があるはずである。そんな事を考えながら通い慣れた道を歩いていると、お寺の門前の「世界が狭いのは、自分の心が狭いんだ」という言葉が、タイミングよく飛び込んできた。車を買おうと思えば車が、バッグが欲しいと思えばバッグが、意識しているものが見える。それを実感する通勤散歩であった。