寿円佳宏 wonderland

スポーツ業界紙「スポーツフロンティア」に掲載しているコラムをブログで紹介。

小保方さんと山中さん(2014年3月)

 理化学研究所小保方晴子さんらが開発したSTAP細胞のニュースは衝撃的であった。まだまだこれからの研究だろうが、夢の万能細胞がこれまでの常識を根本から覆すシンプルな手法で開発された。しかもその中心人物が日本人の若い女性研究員という痛快なニュースであった。iPS細胞の研究でノーベル賞を受賞した山中教授に続き、この分野で日本人が続くのは何とも誇らしいものである。各メディアはこのニュースを、先のiPS細胞と必要以上に比較し、その先進性を伝えようとした。iPS細胞はがん化する可能性があり、作製効率も悪い、それに比べSTAP細胞は・・・、と言う論調であった。毎度の事ながらメディアは常に新しいことを追いかけ、興味のために都合良く誇張する性質を持つ。メディアの誘導に乗ってしまうのが我々の常ながら、自省したいものである。

 とはいえ、この発見の素晴らしさが変わるものではない。もうひとつ素晴らしいと感服したのが、その後の山中教授の記者会見である。小保方さんのニュースが流れた翌日、あるテレビ局のニュース番組の取材を受け、その後休日明けに記者会見を行っている。会見内容も、しっかり小保方さんの研究を賞賛した上で、今後の研究を共に行おうと呼びかけ、そのためにはiPS細胞の研究で培ったノウハウ、人脈を惜しみなく提供するし、iPS細胞研究所でもSTAP細胞研究に取り組むとコメントした。こうした中から病気やケガで損なわれた臓器の機能を補う再生医療創薬にとどまらず、iPS細胞では難しい切断した手が再生するような可能性を目指して欲しいとも。またニュースで流れたがん化のリスクや作製効率についても、比較されたニュースソースがiPS細胞発見時のもので、それから8年が過ぎ大幅に改善されていることを言明、臨床を期待する人たちの不安を取り除いた素晴らしい会見であった。誤解を解くためのすばやい対応、同じ研究者としての賞賛、研究の協力、人類共通の可能性の追求、不安の解消。山中教授に敏腕のPR会社がついている訳ではないと思う。なのにこの手際の良さ、論点の明確さ。コミュニケーションやビジネスセンスも超一流と感じた次第である。