寿円佳宏 wonderland

スポーツ業界紙「スポーツフロンティア」に掲載しているコラムをブログで紹介。

時代をリセットする日本の知恵

 4月1日に新元号「令和」が発表された。「令」の字が命令とか統制をイメージし好ましくないとか、「和」は最も大切な平和を象徴し嬉しいとか、賛否両論があった。全体的には若い人は好意的で、年齢の高い人は懐疑的という印象である。グローバル世界でのコミュニケーションを考えると、文字に意味を持たせない表音文字が効率的だろう。漢字に代表される表意文字は、同じ文化を共有している間柄では、写真を撮るように瞬間的に意味を理解したり、表に見えない意味や想いまでを伝える力を持つ。これは幼少期の英語教育のあり方にも通じる話である。一部では、元号そのものが必要なのかともいう意見もあり、改めて言葉は民族や文化の源である事を考えさせられる機会になった。

 また言葉は、伝える人、時、場で受け止める人の印象が大きく変わる。同じ言葉でも、好きな人から聞くのと嫌いな人からでは違う。今回は、みんなが発表を待つという準備された状態で差は少なかったが、同じ人でもその人の状態で受け止め方は違うのだ。これがコミュニケーションの難しさであり、また面白さでもある。最近の風潮では、あまり自分の意見は言わず勝ち馬に乗る日和見的な傾向にあると感じていたので、元号でこれだけ盛り上がったのはいい事だと思う。本当は、様々な案件に国民が関心を持ち、違った意見をぶつけ合うのが望ましいはずである。政治や経済には無関心で、文化やバラエティに興味を示す国民性は、世界でも特異な気がする。このコラムが出る頃には、何度も見聞きする中で「令和」は市民権を得、随分前から使っていた気分になっているのだと思う。何事も水に流す、桜の刹那さを愛でる、熱しやすく冷めやすい、これもまた国民性なんだろう。

 4月1日の日経新聞朝刊で、ページを開いた瞬間やられたという衝撃的な広告があった。キンチョウ(大日本除虫菊)だ。見開き30段を使い、数時間後の菅官房長官の姿、新元号が書かれたボードを高く掲げる光景をパロったものであった。菅さん役は香川照之さん、ボードの文字はキンチョール。エイプリルフールにも重なる。この日しか使えない一回限りの広告。世の高揚感、気分のすくい上げ方が絶妙。センスの良さが光っていた。