寿円佳宏 wonderland

スポーツ業界紙「スポーツフロンティア」に掲載しているコラムをブログで紹介。

もう一人の自分を飼っておく

 先日、出張先で待ち合わせ場所の近くまで行きながら迷ってしまった。地図アプリを開こうとしたが、スマホの調子が悪く表示されない。迫る時間に焦りながら、ウロウロしていると運良く待ち人の姿が見え、ぎりぎり間に合った。初めてのお客様訪問に迷惑をかけずに済んだ。その後、今度は新幹線の切符を予約しようとしたが、アプリに接続できない。何度かトライするが状況は変わらない。再起動してみると復活。運良くこちらも事なきを得た。立て続けに起きたスマホの不具合が頭に残った。

 乗り込んだ新幹線でチェックしていたメールに、アップル名からのものがあった。「不審なアクセスがあり、一時アップルIDをストップします。解除はこちらから」、といった内容であった。これまでも、あの手この手の悪質メールが届いている。何もなければ普通にやり過ごしただろう。先にスマホの不具合があった事が頭に残っており、勝手に関連づけそうになった。IDが使えないと困るといった考えがよぎったが、結局おかしいと思いやり過ごした。言いたいのは平常時は正しい判断ができるのに、強い思い込み(バイアス)がかかると間違った判断をしやすいという事である。他人の行動は客観的に正しく判断できるのに、自分の行動になると欲望やよこしまな気持ちが働き、判断を間違えやすい。何かを始める際は、過去や他者と違う「こだわり」を持つ事が大切である。同時にそのこだわりがバイアスになり、全体の流れを妨げる事もよくある。大切にしながらも、それを捨てる勇気もまた大切である。

 商品の生産でも同じ事を強く感じる。品質、納期、コストの最適化が仕事であるが、最もいいのは経験値が蓄積され、意識することなく自然に流れている状態。これが全てにおいて最も安定している。逆に不良や、納期遅れ、コスト高を起こす共通項がある。初めての仕事はもちろんだが、時間のない急な仕事、無理な原価交渉、少な過ぎる生産ロット、こうしたバイアスがかかったイレギュラーな時にトラブルは起きやすい。避けられない時は、通常の3倍以上の注意が必要だ。バイアスが普段できる判断を狂わす。とすれば、常に客観的なもう1人の自分を飼っておきたいものである。