寿円佳宏 wonderland

スポーツ業界紙「スポーツフロンティア」に掲載しているコラムをブログで紹介。

AIが作るもう一人のワタシ

   ある番組で、大谷翔平を負かした男として、ボストン・レッドソックスのムーキー・ベッツ選手が紹介されていた。入団前は全く注目されていなかったが、レッドソックスの特殊な発掘テストで見出された。身長は175cmと小柄ながら比類な能力を持つ。「判断力」と「瞬発力」だ。判断力は、ボールを見極める脳の力。瞬発力は、脳の命令を受け身体が動き出す速さを意味する。

  大谷投手は、150kmのストレートと140kmの高速スプリットを投げる。同じ軌道から変化してくるボールを打ち返すのは至難の技だ。スプリットの空振り率は70%以上、他の投手の倍の率を誇る。矛と盾ともいえる二人の対決、18年シーズンはベッツが上回った。ベッツは大谷投手の手からボールが離れた瞬間、通常の選手より約1/3早い段階で、打つ・打たないを判断する。打つと決めると動き出すスピードも他の選手より1/3早い。二つの速さが、大谷投手のボールへの対応を可能にしている。MLBの球場では、ミサイルを追尾するレーダーやカメラが選手の一挙手一投足をデータ化し、日々プレーを進化させている。こうしたデータで示されると、MLBプレーヤーの超人さや、次元の違いがよくわかる。

  MLBで起きているデータ革命も興味深いが、「脳」と「体」に分けてプレイを考えていることに関心を持った。AIの進化と重なると感じたからだ。蒸気機関から始まった機械化は、人の筋力を代替してきた。今はセンサーという目を得て、一層の高度化を果たしている。さらにAIは自ら学習する能力を得て、知能まで代替する様になった。誰もが自分の分身となる脳と体を持つのも近いはずだ。これまでも本やビデオを通じ、先人の考えが受け継がれてきた。が、AIの知能は過去だけでなく、その人が考えそうな事を推察し、今に対応する。そしてAI知能は、その人が亡くなった後も生き続けるのだ。またAIが、本人を追い越して行く現象も起きている。フェイスブックを例にあげると、150のいいねで配偶者より私をよく知り、300のいいねで私より私をよく知ると言われる。長年の夢であった不老不死はこれなのか、自分の存在は何なのか。初夢ならぬ私の妄想は続く。