寿円佳宏 wonderland

スポーツ業界紙「スポーツフロンティア」に掲載しているコラムをブログで紹介。

過剰を捨てるとうまくいく

 南太平洋の島ツバルなど島嶼国では、耕作地から海水が沸き出し作物が育たない。一方大陸では様々な所で砂漠化が進み、温暖化対策は待ったなしに迫っている。先のCOP25では、会期を2日延長して合意形成が試みられたが、玉虫色の曖昧なものになった。アメリカがパリ協定から離脱し、中国やインドも消極的。原発問題を抱える日本も立ち位置が定まらず、「化石賞」という不名誉な賞を2年連続で受賞する事になった。身近な魚が獲れなくなったり、台風や度重なる豪雨から異常を感じているが、旅先でその深刻さを実感することになった。


 長期の休みをもらい訪れた街の一つがベニス。水害のニュースは聞いており、ある程度覚悟はしていた。到着した夜は気配がなかったが、翌朝になるとホテルのテラスが薄く水を張った状態に。これくらいならと散策に出かけたが、しばらくすると至る所で道が水没。深い所はひざ下まであり、すり足で歩く状態。観光の中心サン・マルコ広場は完全に水没していた。それでもお店は普通に開いており、店員さんは長靴姿で何事もないかのように仕事をし、お客さんも水に浸かりながら飲食を楽しんでいた。特別でなくこれが普通。そんな光景に驚かされた。また水が満ちてくると、様々な店が一斉に簡易な長靴を軒先に吊るし、商売を始める。さすが商都ベニスの商人である。私たち観光客は、それを靴の上から履き、通りすがりの非日常を経験する。「沈む前に来て良かったね」、が本当にならないことを祈りたい。

 

 便利さや快適さを追及するあまり、起きている様々な過剰。人間のエゴが温暖化の要因であることは間違いない。欧州は環境に対する意識が高く、最近はどこも「サスティナビリティ」を最優先に打ち出している。日本も若い人たちの意識は高い。環境に真剣なブランドを支持したり、自らも持ち物を減らし、シェアやリユースにも積極的である。人口減や高齢化で経済が減速しているが、過剰を良しとしない価値観が、もう一つの大きな減速要因だと思う。流通の過剰、家庭の過剰が消えているのだ。本来のあるべき姿に戻っているともいえる。令和最初のお正月、成功体験を捨て、新しい価値観に切り替えるいい機会にしたいものである。