寿円佳宏 wonderland

スポーツ業界紙「スポーツフロンティア」に掲載しているコラムをブログで紹介。

ブランドは瞬間解凍する記号

 市場が縮小する中で、ブランドの大切さを見直す機会が増えている。この場で「ブランドとは」といった話はできないが、気になっている事に少し触れてみたい。

   身近な所で言えば、忙しくても親身に相談に乗ってくれる頼り甲斐のある〇〇さん、いい事は言うけど実行が伴わない△△さん。こんな感じで、人はそれぞれ自分のフィルターを通して周りの印象、大げさに言えばその人の人格=ブランド感を決めている。それは〇〇さんや、△△さんの一部であるが、全てではない。受け手が都合よく切り取った断片である。怖いのは、その断片が間違った思い込みであっても、その人になってしまう事である。

 企業に置き換えてみよう。企業は、自分たちのブランドや商品の思いを伝えたいと、あの手この手を使って努力している。しっかり伝えれば届くかと言うと、そう簡単ではない。届くには、大きく二つのステップがある。「認知」と「好意度(嫌悪度)」だ。まず知ってもらわないと始まらない。知られていないのは嫌いよりも重症、世の中に存在しない事になる。だから企業は熱心にPRや広告を行う。伝わるために重要なのが、受け手がその企業に持つ好意度(嫌悪度)だ。それは、広告だけでなく、商品の使用感や売り場での体験、世間の評判、こうしたものが蓄積されて生まれる。好き嫌いは企業からは手出しできない、相手に委ねるしかない。それが難しい。認知とプラスイメージが重なると、期待する行動につながる可能性が高い。認知されても、蓄積がマイナスだと次に繋がらない。逆に負の伝播すら起こりかねない。昔こんなことがあった。売上至上主義に見られた大型スーパーと、有数のグローバル家電で、同じようなスキャンダルがあった。その時の風潮は、前者は「やっぱり」、後者は「間違いじゃないの」、そんな反応であった。同じ事でも、蓄積されたイメージで反応は大きく変わる。

 多くの企業は、統一した表現基準を設け、イメージがブレないよう努めている。これは一つの対策だが、大切なのは顧客と出会うあらゆる機会で「らしく」振る舞う事だ。その小さな積み重ねが、顧客の中で好意的なストーリーに結ばれるのが望ましい。ブランドは、それを瞬間解凍してくれる記号だ。