寿円佳宏 wonderland

スポーツ業界紙「スポーツフロンティア」に掲載しているコラムをブログで紹介。

急げ、船が出るぞ〜(2016年7月)

 空港で、夏休みを利用し一人で帰国した小学生に出会った。一人旅には幼な過ぎる年齢で、航空会社のお姉さんがアテンドしていた。入国手続きを待つ間の小学生とお姉さんの会話が面白かった。小学生はイギリス在住で、現地の学校に通っている。ちょうどイギリスがEU離脱を決めた直後で、学校で擬似投票をしたらしい。自分はこれこれの理由で離脱反対としっかり話すのにびっくり。さらに、小学生はこんな風に待たせられたり、搭乗に2時間も早く空港に行くなんて信じられない。マイクロチップに個人データを入れて皮膚に埋め込めばいいのにと、気負いなく今の問題を指摘する。見かけの幼さと、そのしっかり度のギャップに、異次元の世界を見たような錯覚に襲われた。恐るべしデジタルネイティブである。

 2011年に小学校に入学した子どもの65%は、大学を卒業した後に今は存在していない職業に就くという。またコンピューターが人間の知性を超える転換点は45年に来るという。AIIoT第四次産業革命は今年が元年、次の席替えタイムが始まっている。前のITとインターネットの第三次は私が四十歳くらいで、運良く直面することができた。企業規模の優位さがなくなり、誰にもチャンスがあると毎日ワクワクしたものである。その頃ソフトバンクPCソフトの卸屋さんだったし、楽天は存在さえなかった。結果として、時代の風を受け止めた会社とそうでない会社との差は想像以上だった。産業革命は「ルールが変わる」ということだと思う。第三次はわずか30年で賞味期限切れ、ホッとする間もなく新しいルール変更を迎えている。幸か不幸かその周期は短くなり、もはや安住の地はなさそうである。

 空港の小学生は忘れていた事を思い出させてくれた。私はルール遵守の住民。入国手続きの行列に行儀良く並び、せいぜい短い行列を探すくらいの小市民ぶりを反省したのである。小学生は新しいルールを作る世界に住んでいる。新しい考え方を身につけた彼のような子供たちが、さらに新しい技術に出会い、軽く脱皮を続けていくのだろう。すべての人すべての企業に、チャンスと危機が迫っている。ルールを守る側か、ルールを作る側か。チャンスに尻尾はない。