寿円佳宏 wonderland

スポーツ業界紙「スポーツフロンティア」に掲載しているコラムをブログで紹介。

ふたつの「レ・ミゼラブル」(2014年9月)

 1985年のロンドン初演からミュージカル史上最長ロングランを誇る名作「レ・ミゼラブル」。日本でも東宝1987年に初演、歴代の役者さんがキャストに名を連ね、ご覧になった方も多いと思う。2012年にはヒュー・ジャックマンが主演した映画版「レ・ミゼラブル」がヒット。2010年には初演の地ロンドンで25周年記念公演が開催された。映画とミュージカル、二つの「レ・ミゼラブル」をWOWOWが続けて放送し、運良く両方を見る機会があった。誰もが知る物語は、見る人がそれぞれにイメージを持っており表現が難しい。映画は時間の制約が大きいが、シーンを自由に変えられる良さがある。また人物のアップが使えるので心象心理を描きやすい。ミュージカルは映画以上に制約は多いが、その中での演出や迫力は生でしか味わえないものだろう。私はテレビを通じて見た舞台であったが、やり直しの効かない生の迫力に圧倒された。25周年記念の豪華キャストということもあるが、舞台という限られた条件の中で映画や小説以上に伝わる演出であった。例えばこんなシーンがあった。ジャン・バルジャンを執拗に追い続けるジャベール警部。彼がジャン・バルジャンに助けられた後、激流の橋の上に立ち自らの生き方に疑問を持ちながら、身を投げる。映画では激しい流れや高さなどを通し不安を描くことができる。舞台ではどう表現するのか楽しみにしていた。ジャベール警部は中央に仁王立ちし微動だにしない。背景全面を使い、滝を連想させる光と音で、激しさや不安さを表現していた。とてもシンプルであるが、映画以上に感じることができた。

 少し前の話を持ち出したのは、この時感じたことが二つあったから。舞台にみられる様に、規制や制限は不自由さでなく、むしろ歓迎すべきものであるということ。何でもOKと言われるより制限を与えられる方が集中して考えられ、いいアイデアも生まれやすい。私は自由であっても自ら制限を加え考えるようにしている。もう一つは表現を完結し過ぎないこと。どこかに相手にゆだねる部分を残す。これが表現を深くする。仕事も同じだ。ついつい言い過ぎたり、作りすぎたりしてしまう。注意したいものである。