寿円佳宏 wonderland

スポーツ業界紙「スポーツフロンティア」に掲載しているコラムをブログで紹介。

デザインとアートの役割(2013年3月)

 デザインを、機能や品質と同様にブランディングの柱に据える企業が増えている。デザインが重用されるのは喜ばしい。ただデザインと一言で言っても何を指すのか、またその良し悪しの基準は何か、まだまだ経験が少なく判断に困ることが多い。先日なるほどと納得させられるコメントに出会った。問題を解決するのが「デザイン」、問題を提起するのが「アート」。実にシンプルで鋭い。

 デザインは広義では、設計と同義語で使われる。都市をデザインするとか、ショッピングセンターをデザインするとかだ。狭義では、商品や印刷物などのデザインがそうで、私たちの感覚に近い所だ。商品開発は、軽さと強さなど常に相反する要素をいかに共存させるかの戦いだ。新しい素材の開発、部品の最小化や新しい工法など、問題解決のための工夫がデザインと言える。また印刷物でも、限られたスペースや限られた時間内に、いかに正しく伝えられるか、写真やコピー、レイアウトに工夫を凝らす。これも制限の中で伝えるという課題を解決している。都市やショッピングセンターのデザインでは、サイン(標識)が象徴的だ。広いスペースに様々な人が集い、安全にそれぞれが効率よく目的を達成するには、スムースな導線やサインが不可欠だ。スペースや建物をいかに利用しやすくするかはデザインの本領だし、誘導するためのサインの簡潔性もデザインの役割だ。

 以前、一緒に仕事をしていた人が新社屋のプロジェクトに呼ばれ、後日社屋完成時に案内をしてくれたことがあった。そこで設計するにあたっての苦労話を聞いた。建物を設計するということは、今行っている事業を現場の人以上に徹底的に理解することが必要だ。さらに建物の寿命を考え、30年先50年先にどんな進化が予想されるか、その変化にも対応できるように設計する、予言者のような役割まで期待されると話していた。デザインの意味を象徴している話だと思う。

 アートは、社会の問題を作家の表現を通し世に投げかける。アートは人々に気づきを与え、デザインはそれを様々な方法で解決する。最小の要素で最大の効果を導き出す。そんなデザインが、人の気持ちにも、品質にも、コストにも、環境にも一番いいように思う。