寿円佳宏 wonderland

スポーツ業界紙「スポーツフロンティア」に掲載しているコラムをブログで紹介。

顧客に響くのはデータか愛か(2017年10月)

 AGFAという言葉がある。AppleGoogleFacebookAmazonの頭文字を並べたもので、今最も影響力を持つ4社を指す。アップルはiPhone発売10周年を記念したモデルiPhonXを発表し、アマゾンは米高級スーパーのホールフーズ・マーケットを買収するなど、その勢いは増している。特にアマゾンの脅威は身近に感じる。アマゾンは、コンビニと競合する商品からファッションまで両方向に手を広げ、購入できる商品の幅を広げている。さらにスマホの次の主役と言われるスマートスピーカーでも優位にある。スマートスピーカーは、AIと会話し様々な用事を済ませられるツールで、利用者の行動履歴を丸裸にする。ネット情報のインフラを制した企業は、ネットとリアルの区別がなくなる事にいち早く対応し、次の生活インフラでも主役を狙う。その対抗策はないのだろうか。

 規模は違うがヒントになる事例がある。ウェアラブル端末の米ガーミンだ。アップルやサムソンが立ちはだかる市場に風穴を開け3位のシェアを持つ。得意なGPS技術を生かし、スポーツに特化した商品でヒットを重ねてきた。アップルにない独自性がコンセプトで、トライアスロン、マラソン、ゴルフ、フィットネス、サイクリング、登山と広げてきた。成功の要因は、GPS技術、大手が狙わないニッチ市場、愛好家をうならせる高機能、垂直統合体制(開発、設計、生産、販売、サポート)、自社社員などが挙げられる。その中で注目したいのが「人」である。創業者が「ガーミンという会社を愛する社員たちの強い情熱が、結果的に顧客の心を掴んでいる」と語っており、まさにここにAGFA対策のヒントがあると思う。ニッチ戦略は投資の割に市場が小さく非効率であるが、先行し圧倒的地位を築けば成り立つ。市場の小ささは参入障壁となりコモディティ化を防ぐ。社員が会社を愛しており、その情熱が顧客に伝わり、顧客が次の顧客を連れてくる。これが理想だ。AGFAもガーミンも、強さの共通項は顧客をよく知っていること、顧客との距離が近いことである。だが手法は正反対。情熱や愛は規模と関係なく誰でも参加できる、そこにチャンスがあると思う。