寿円佳宏 wonderland

スポーツ業界紙「スポーツフロンティア」に掲載しているコラムをブログで紹介。

顧客が購入する本当の理由(2017年9月)

 車を衝動買いする店があると聞き、行ってみた。その店はトヨタが開発した「トレッサ横浜」というモールにある。トヨタが扱う全車種を2階のフロア全面で展示、1階は広大なメインテナンススペース。トヨタ車に関することは、全てここで大丈夫という安心感がある。子育て世代が多い地区ということもあるのだろう。展示はスタイリッシュというより、生活感を打ち出した内容であった。コンパクト車から、流行のSUV、ファミリー向けワンボックス、シニア向けセダンなど、それぞれのライフステージに合った演出と、今だけのお買い得得感をうまく両立させていた。子供がもう少し大きくなったら、こんな車でキャンプに行き夜空を眺めたい等。こうありたいと思う「家族の未来」を売っている。異次元な空間と的を得た演出が家族を刺激し、いつか買うのだから少し早くてもいい、そんな気持ちにさせるのかもしれない。「未来を体験」する場になっているのは間違いない。

 あるシャンパンの会社は、売れ行きが落ちたため、自分たちの顧客は誰で何を売っているのか、社員で話し合ったらしい。アルコールを売っている。飲料の会社だと、様々な意見が出た。話し合いを重ねる中で、出てきたのが「祝福」というキーワードだった。シャンパンが飲まれる機会は、日本ではまだ限られている。多くは結婚式や記念日などのお祝いの席。なら祝福を盛り上げる飲み物という位置付けで、祝福の機会を増やすことに取り組み、成功したという。

 二つの話は、顧客は商品から得る体験を第一に考えるようになっており、それに合わせ全ての業種はサービス業化することを示している。まずは、自分たちの商品が顧客に支持されている本当の理由は何なのか、これを見直すことが第一歩になる。先行例を挙げると、ある農薬の会社は「単位面積当たりの収穫量」、複合機の会社は「顧客の文書管理」、航空機エンジン会社は「燃費と飛行時間」と、売っているものを再定義し、利用に応じた課金に変えてきている。これをスポーツに置き換えた時、自分たちが本当に売っているものは何か、言い換えればスポーツの顧客が本当に欲しているのは何か、これを見つけた所が次の主役になるのだろう。