寿円佳宏 wonderland

スポーツ業界紙「スポーツフロンティア」に掲載しているコラムをブログで紹介。

見えない谷をジャンプする勇気(2017年7月)

 デビューから無敗のまま将棋界の連勝記録を塗り替えた藤井聡太四段。将棋はもちろん、受け答えや食事に到るまで、14歳の最年少棋士の一挙手一投足に日本中が熱狂した。連勝は29でストップしたが前人未到の記録に違いはない。先日、日本将棋連盟のモバイル編集長兼プロデューサーをしている方の話を聞く機会があった。ちょうど棋士代表とコンピュータ代表が戦う電王戦が終わった後であった。佐藤天彦名人がponanzaに2連敗。もはや将棋においてはコンピュータに勝てない所に来ている。将棋は7年前にコンピュータに負け、その時は「プロ棋士が機械に負けるなんて」と世間の風当たりは厳しかったが、7年経った今では負けても騒ぐ人はいなくなったと言う。過去の対戦でコンピュータに勝った棋士4人程。共通しているのは、コンピュータゲームに親しんで来た若い世代である。長く棋界にいるベテランはことごとく敗北した。独自の世界で築いてきた伝統や美学は通用しなかったのだ。藤井四段も小さい頃から将棋ソフトを積極的に活用して力をつけたと言われている。いつの時代も、どの業界でも、変化を積極的に受け入れる人と、変化を潔しとしない人がいるということだろう。難儀なのは、多くの人は自分は柔軟に変化対応しているつもりでいることだ。ズレに気がついた時はすでに手遅れ。しかも変化は想像以上に早い。

 もう一つ、ヤマト運輸がこれまでのサービスを見直すと発表した。サービスに見合う対価を得られない日本型サービスを見直し、値上げと賃上げ、働き方改革を同時に実現するという。他の運送会社は追随するのか、アマゾンはどう対応するのかと興味を持っていた。アマゾンは個人事業者を活用し独自配送網を構築するらしい。まずは東京都心で丸和運輸と組み、軽貨物車1万台、運転手1万人の体制を整える。日本の運輸業界は下請け・孫請け構造になっており、ITを活用すれば元請けなしで直接の契約が可能ということだ。また学生や個人が配送する物流版ウーバーともいえるサービスも生まれつつある。ここでも過去の延長に答えはなく、勇気を持ってジャンプした所に新しいアイデアがある。これを肝に命じておきたいと思う。