寿円佳宏 wonderland

スポーツ業界紙「スポーツフロンティア」に掲載しているコラムをブログで紹介。

論理より感情 優位の時代に(2017年6月)

 KPI(重要業績評価指標)を決めPDCAサイクル(計画・実行・評価・改善)を回そうとか、ゴールを決めて逆算で行動しようとか、こうした事を訳知り顔で話すことが多い。1.全体の状況を俯瞰し、2.課題をもれなくだぶりなく洗い出し、3.影響度順に並べ、4.解決のための策を考え、5.組織に落とし込み、6.進捗を図る。現状とありたい姿のギャップを埋めていく作業とも言える。確かにこの方法はわかりやすいし効果も出る。一度は通過すべき過程である事は間違いない。やりながらもどこか腑に落ちないのは、数値など見える事に注力するため、目指す事がどこも同じになりやすい。しかも収斂が進むと強者の一人勝ちに。効率的過ぎて、感動のないものになってしまうという懸念も残る。もう一つは変化の速さだ。ゴールを決めても、すごい勢いで与件が変わってしまう。何々で世の中の役に立ちたいとか、この課題に取り組むといった、ぼんやりしたスコープだけを持ち、後はやりながら考え、修正を繰り返す方が今風だと思う。与件が変わるのだから、変わらない方がおかしいのだ。目標を決めて最後までやり抜くのも道だが、早く、小さく、数多く手を打つ。失敗するのは当たり前、そこから小さな当たりを見つけ育てる。型どうりでなく柔軟に対応する力が試されている。残念ながら、こうしたものは形式化できず、やって見ないとわからないものがほとんどだ。みんなの合意でとか、稟議制度とは真逆のものである。組織やリーダーには失敗を許容でき、委ねる懐の深さが求められる。起案者には、ありたい姿に向かう強い意志と覚悟が求められる。

 AIが進み、人と機械の役割がどう変わるのかも盛んに議論されている。機械が人の仕事を奪うのか、それとも機械は眼鏡のように人の能力を補完するのかといった話だ。理由のあるものは、AIの方が圧倒的に優位だが、理由のないものや筋道がわからないものは、人の方が向いている。ムダと思われるものや合理的でないもの、その辺りに人の優位性がありそうである。先日「GINZA SIX」に開いた「銀座蔦屋書店」のオープンで、増田宗昭社長が「これからはアート。アートを大衆化したい」と語っていたのは印象的である。