寿円佳宏 wonderland

スポーツ業界紙「スポーツフロンティア」に掲載しているコラムをブログで紹介。

  鉄砲と愛が、歴史を変えた(2017年2月)

 先日ある講演を聞く機会があった。幕末の長州藩と幕府の戦い、それと鉄砲についてであった。攻める幕府軍10数万人。迎え撃つ長州は数千人と二桁違う戦力であった。戦いは1次2次の二度にわたり行われたが、いずれも長州の勝利となった。幕府への不信や様々な裏交渉があり、単に数の問題ではなかったようだが、この戦いに鉄砲が大きく貢献したことは間違いない。それと共に兵の成り立ちも大きく変わった。幕府軍は諸大名から集められた侍で、いわばプロの兵士。長州軍は、農民や商人など侍以外の人たちが集まった素人集団。一人一人では敵わないので、横一線に並び集団で一斉に鉄砲を放つ。これは技術がなくても強力な武器になる。幕府側は剣術は習っていても、平和な江戸時代にあって戦の経験がない。古式ゆかしく名乗りを上げて戦ったようだ。これではいくら兵力の差があっても話にならない。また長州の人たちは、幕府からも夷敵からも狙われ、負ければ愛する家族も土地もすべてを失う危機感を持って戦った。祖国を愛する気持ちがもう一つの大きな武器になった。詳細は多少違うかもしれないが、おおよそこんな話であった。

 歴史の話として面白おかしく聞いたが、これはスポーツ業界と重なるように聞こえた。既存の狭いスポーツ業界は、徳川200数十年の平和な鎖国時代であった。様々な業界が次々と変革を迫られる中で、スポーツは残された業界になっていた。それがグローバル、異業種、ITEC含む)との競争に直面することに。鎖国の役割を果たしていた業際や枠がなくなったのだ。国内と海外。メーカー・卸・小売も。店売り・外商・ネットも。さらに他業界との壁もなくなった。壁は著しく低くなくなり、誰でも簡単に乗り越えられるようになった。新住民はフロンティアを目指し簡単に入って来るのに、旧住民は相変わらず壁の内にこもっている。2020年東京をはじめ、地域活性、高齢化などの社会背景を考えると、スポーツは可能性に溢れている。今を刈り取るだけでは未来はない。「ITという鉄砲と、「人の繋がり」という愛をもって、高い視点からスポーツを生活の中に浸透させ、文化にしたいものである。私たちはその最前線にいる。