寿円佳宏 wonderland

スポーツ業界紙「スポーツフロンティア」に掲載しているコラムをブログで紹介。

組織に頼らない個人が主役に(2016年9月)

 約1カ月半に亘り世界を熱狂させたリオ五輪パラリンピックが終了した。両閉会式では小池百合子都知事がバトンを受け継ぎ、素晴らしい東京プレゼンを披露した。何かと揺れた東京であるが、ようやく本格始動すると期待する。

 先の都知事選は、人々や街の気分を映し出すという点で興味深かった。参院選で圧勝し勢いづく自民党公認増田寛也さん、野党統一候補鳥越俊太郎さんとビッグネームが並んだが、小池さんが圧勝。勝因の一つはSNS。本人もSNSによる広がりを勝因に挙げていた。ツイッターのフォローでは、小池さん21万人、増田さん6千人、鳥越さん15万人。選挙中も自ら写真を選んで投稿するなど、他のおじさん達より長けていた。

また小池さんが女性であり、組織に見切りをつけ自らの意思で立ったことも大きかった。既得権に安住する老人たちの不透明な候補選びやその体質、前知事を始めとする政治家の非常識に「ノー」を突きつけたい。そんな気分をうまく取り込んだと思う。さらに上手かったのは演説会をフェスと呼び、参加する人に緑のものを身につけるよう呼びかけ、会場を緑色に染めた。支持を可視化すると共に一体感を煽った。これは「ゆりこグリーン」として連日メディアにも取り上げられた。

 話は変わるがクラフトビールが頑張っている。クラフトビールは、今でこそアメリカで10%のシェアを握るまでになっているが、長くメジャーのパワーマーケティングに苦戦が続いたらしい。浮上のきっかけになったのがやはりSNSツイッターなどのクチコミでファンを広げた。大手ビール会社を仮想敵とし、自分たちのスタイルでビールを飲むという「自由」を取り戻す戦いに多くの人が賛同した。

 小池新都知事を生み出したのも、権力や既得権に物申す機運、それを拡散するSNSマーケティングであった。小池さんの選挙とクラフトビールの成功、共通する点が多いのは偶然ではない。組織の都合はもはや通用しない。過去にとらわれず、顧客視点で見直し、新しいツールを使いこなすことが、我々すべてに求められている。便利、得するだけではない。考え方やスタイルも含め、人々は残したい企業やブランドを「購入」という形で「投票」している。