寿円佳宏 wonderland

スポーツ業界紙「スポーツフロンティア」に掲載しているコラムをブログで紹介。

スマートショッパー(2012年9月)

 どんなにお金があっても、買い物は少しでも安く買いたいと考えるのが世の常である。たぶん、お金の問題で安く買いたいというよりも、気持ちの問題の方が大きいかもしれない。人は、納得できる買い物、賢い買い物をしたいのだ。商品と価格の関係だけなら行動は単純になるが、人の気持ちが加わると複雑になり、予測しづらくなる。見方を変えれば、だからこそ面白いとも言えるし、後発や規模の小さな会社にもチャンスが生まれる。

 私達は、買い物をする際、常に何かと比較している。違う店と比べて、ワンランク上下の商品と比べて、この買い物は正しいのかどうかを測っている。買った後も、自分の行動の正しさを再確認しようとさえする。それくらい正しい買い物をしたいのである。例えば、デパ地下の総菜や有名店のテイクアウト。近所のスーパーに比べれば確かに高い。しかし外食したと思えばずいぶん割安。比較するものを変える事で、おいしいものが安く、ちょっと得した気分になれる。価格は同じでも、比較対象がスーパーなら思いとどまり、外食ならお買い得となる。ただ酔うためなら自宅で飲む方が合理的だ。場の雰囲気や話相手など、家では手に入れられない価値があるから外で高いお金を払う。また、誰かに認めてもらったり、褒めてもらうと嬉しい。ちょっと頑張って買い物しようかという気にもなる。自分の価値観でなく、回りの人の価値や評価にも大きく左右される。

 スポーツ用品も嗜好性の高い商品は、少々高くてもいいものが選ばれ、消耗品はコモディティ化が進み、低価格が当たり前になっている。消費税の段階的なアップが決まり、消耗品の価格は一層厳しい競争を余儀なくされるだろう。こうした現実は受け入れながらも、先の例のように、病院にかかるのに比べればスポーツの出費なんてわずかとか、スポーツで健康や仲間が手に入るとか、従来の枠組みを超えた提案が待ち望まれている。ウォーキングシューズのフィッティングなどはいい事例だ。通常の靴と比べればかなり割高だが、歩けなかった人が歩けるようになるとすれば、その価値は計り知れない。こんな事例を増やすことができれば、スポーツの未来は明るいはずである。